やきもののふる里  訪ねてみたいやきものの街   伊賀  

シリーズ 第6回

   伊賀(三重) 城下町が育んだ茶陶に
                  武士好みの力強さが息づく...

  


伊賀焼の陶郷、丸柱


伊賀伝統産業会館

伊賀焼は美濃焼とともに茶陶として名を馳せた古い窯。しかし「伊賀」と聞いて、まず連想されるのは「伊賀もの忍者の里」や「松尾芭蕉の生誕地」などで、「伊賀焼」を思い浮かべる人は意外と少ない。それは伊賀焼が武士の間で茶の湯が嗜まれるようになった室町時代以降、庶民には馴染みの薄い「茶陶」として独自の道を歩み始めたことと、山ひとつ隔てたところに日本六古窯として有名な信楽の里を控えていたことが影響していると思われる。



伊賀焼の発祥の地は緑濃い山懐にある。三重県の北西部に位置し、上野市内を北に上がった県境にある丸柱という山里。昔ながらの佇まいを見せる古くからの窯元が多く、伊賀焼伝統産業会館周辺に約25軒が点在している。伊賀焼の陶境は緑濃い山あいにあるため、それぞれの窯元へのアクセスは容易でないので、事前にいくつか絞り込み伊賀焼伝統産業会館で案内を受けるのが早道である。

やきものの里としても忍者の里としても知られる伊賀と信楽。わずか山ひとつ挟んで陶土を同じくする伊賀焼が信楽焼に似ているといわれるのも当然かも知れない。ただ、俗にいう「伊賀に耳あり、信楽に耳なし」といわれるデザインだけではなく、伊賀焼には武士の茶陶として育まれてきた、豪壮かつ端正な作風が受け継がれている。


伊賀焼を有名にしたのは、桃山から江戸初期にかけての茶陶。それも作陶もこなす筒井定次が上野藩主になってから。彼は陶工としても卓越した才能を見せながら、茶人で武将の古田織部らと親交を深めるようになり、デフォルメの面白さを全面に出した彼の作品は「筒井伊賀」と呼ばれるまでになった。続いて築城で名高い藤堂高虎が藩主となると小堀遠州らの指導もあって「藤堂伊賀」としてますます茶陶としての地位を固めていく。

伊賀一帯は、古琵琶湖層と呼ばれる地層で、耐火度が非常に高く小砂混じりの良質の粘土が産出される。こうした土質を生かした伊賀焼は、固く焼き締められ、信楽に比べ枯淡な色合いが茶道の侘び、寂びの精神に通じ、力強い作風が武士好みだったとされている。


重文 伊賀花生(桃山)




伊賀窯場風景
伊賀の窯は信楽より温度が高く、固く焼しめられるのが特徴で、信楽に比べると男性的な力強さが感じられる。信楽も茶陶として重宝されたが、スポンサーの利休が没すると日常雑器に戻った。その点、伊賀は織部の影響が残り、茶陶はその後も引き継がれる。


本来、やきものといえば土や窯や火から生まれる偶然性や自然美を重視するもの。伊賀焼は、伊賀の七焼きといわれるほど、じっくり火力の強い炎で焼くことで、作為的に火色や照らてらした特有のツヤを生む。窯焚きの松割り木の灰による自然釉が融けて、ビードロと呼ばれる透明度のある青いガラス質の天釉、コゲなどの融和にある。
アクセス: 
《電車》 JR関西本線伊賀上野駅、近鉄伊賀線上野市駅下車。
《クルマ》 名阪国道上野東ICより国道422号線を上野方面へ、ICより5分。

問合せ先:
《上野市役所観光課》
0595-21-4111
近代会津のやきものは丸柱と併せて上野市も旅のルートに。伊賀信楽古陶館、松尾芭蕉にまつわる旧跡や忍者屋敷・・・と城下町「伊賀上野」の歴史に浸るのもよい。


伊賀信楽古陶館は建物の規模は大きくないが、郷土の愛陶家・故奥知勇氏により収集された古伊賀、古信楽の逸品34点を展示、伊賀焼の歴史もひと目でわかる。 また伊賀陶芸会による現代の伊賀焼陶芸作家26人の作品を展示販売するコーナーもある。


伊賀信楽古陶館
(奥知古陶コレクション)

白亜三層の伊賀上野城
近代会津のやきものは観光名所の筆頭は山に囲まれた小さな盆地の北側の丘にそびえ立つ伊賀上野城で、碧緑の上に鳳凰が翼をやすめる美観に似て「白鳳城」とも呼ばれ、静かな雰囲気を醸しながら、端麗な姿を見せている。昭和建築の木造最後の城で、天主三階の絵天井は横山大観ほか名士の色紙46点を揃える。また、「伊賀は秘蔵の国、上野は要害の地」となした築城で、内堀の石垣(30m)の高さは日本一といわれている。


城を囲む上野公園には、芭蕉の旅姿をかたどった俳聖殿があり、この地ならではの、意外な等身大の伊賀焼・芭蕉像が安置されている。旅の人生に終始した芭蕉も29歳までここ上野で過ごした。 

伊賀流忍者博物館は子どもから大人まで楽しめる、忍者のテーマパークのようだ。忍者の歴史や生活を実感できるという「忍者屋敷」は一見、萱葺き屋根の普通の農家に忍者として暮らしてきた人々の知恵がたくさん隠されている。

芭蕉や忍者だけでなく、昔ながらの町並みや、ロマンチックな建築物、のどかな自然の風景などなど、一瞬タイムスリップしてしまったような不思議な気分にしてくれる。伊賀上野は、小京都と呼ばれるほどに、自然と城下町が融合する街である。


伊賀流忍者博物館

やきものクラブ・楽陶